『黒執事』(枢 やな)
数年前、友人がハマったと聞いたので試しに読んだら自分もハマった作品です。
軽い気持ちで読みましたが、これがメチャクチャ面白い。
最新巻が出るたびにソッコーで買っているくらいにハマっています。
○徹底的な下調べと綿密な構成
黒執事はかなり細かく作られています。
作者の枢やなさんは下調べを入念にやる人で、当時のイギリス文化や、テーマとなるものを細かく調べて描かれています。
比較的最近に連載していた『学園編』でクリケット大会を描く為に、実際にクリケットを体験しにいったと言います。
机仕事が中心の漫画家にはキツかったそうですw
確かに運動不足にはなりそうですよね。
さらにクリケット編では、クリケットのルールを逆手に取った戦略が出てきます。
シエルが所属する寮は勉強が得意で運動が苦手な生徒が集まっており、クリケット大会では万年最下位。
なのでシエルを中心に頭脳プレイで優勝を目指すことになります。
紳士的なスポーツとは到底思えないような姑息な作戦、ダーティープレイを駆使してw
枢やなさんはクリケット体験の際、
その頭脳プレイに関しても質問したそうです。
作品の為に身を持って体験した上で、怒られそうな事も質問する。
この作品作りに対する姿勢と度胸はリスペクトものです。
○隠しネタが満載の『ファントムハイブ邸殺人事件編』
『ファントムハイブ邸殺人事件編』もかなり綿密です。
ものすごく詳細に調べたんだろうなー……という箇所がたくさんあります。
このストーリーは古典的な推理小説に黒執事テイストを織り混ぜたもの。
全体的な流れはもちろんですが、作品の細々とした部分にも現れています。
例えばラウの「いくら我々中国人でも換気口は通れない」というセリフ。
これはラウが犯人だと疑われた時のセリフですが。
このセリフは推理小説のルールの1つ、『中国人のキャラは出すな』を基にしたものだと思われます。
古典的な推理小説にノックスの十戒というルールがあるのですが、この中には上記のような項があります。
中国人を登場させてはならない[2]
( フー・マンチューのような万能の怪人のことを指す)
これは差別思想ではなく、「中国人はなんでも出来る魔法使いだから、推理小説に出したらどんなトリックも可能になるぞ!」という、半ばジョークめいたルールです。
(ノックスの十戒はイギリスの推理作家、ロナルド・ノックスが唱えたものです。
作中には同名の死神が登場します。ちなみにノックスの兄はパンチという雑誌の編集長でしたが、この雑誌名も殺人事件編に出てきます。)
さらにストーリーに深く関わるキャラ、アーサー。
アーサーは小説家であり、雑誌に寄稿した小説をシエルが読み、気に入った事から晩餐会に招待されました。
このアーサーに関しても多くの伏線というか、以下のような設定が作られています。
・中世イギリスの新人作家
・小説家の他に医師の顔も持つ
・ベルという教授から教えられている
・作中でタナカが使った護身術を『バリツ』と記憶した(「バーティツ」を聞き間違えた)
そして他の登場人物に関しても。
・容姿端麗の女優の名前がアイリーン
・謎の牧師、ジェレミー・ラスボーンの名前
これらから分かるように、【ここから先はネタバレの為、反転】
殺人事件編は【シャーロック・ホームズ、ひいては古典的な推理小説をモデルにしている】。アーサーとは有名な小説家、【アーサー・コナン・ドイル】です。
【反転ここまで】
このように綿密な下調べに裏打ちされた小ネタが多数仕込まれています。そういったものを探すのも楽しい読み方です。
○時代に合わないアイテムがストーリーに溶け込んでいる。
例えば死神が持つ魂を刈るための刃物「死神の鎌(デスサイズ)」には、電動式チェーンソーや高枝バサミ型のものがあったり。
カリー対決編でセバスチャンが作った革新的なカリーなど。
このように、中世イギリスの世界観に合わないものがちょくちょく出てきます。
しかしそれらは全てがストーリーが最高潮に盛り上がるタイミングで登場人物するため、違和感はほとんどありません。むしろ「ここでそれが出てくるか!」というサプライズ的な楽しみになります。
ちなみにサトクリフとはヨークシャーの切り裂きジャックこと、ピーター・サトクリフから取ったものと思われます。
○まとめ
長くなりましたが、要するに言いたいのは、「黒執事は最高に面白い」ということです。
基本的に私は現代を舞台にした作品が好きだったのですが、黒執事を読んでからは現代ものに拘らなくなりました。
面白いものは面白いんだから、まずは読んでみるか……という感じ。
作品に触れるハードルが低くなりました。
ストーリーが本当に良く作られているのが素晴らしいです。
新刊が出る度に満足感タップリで幸せな気分になれます。