【ネタバレ】映画『パージ』レビュー。 最後まで人間であろうとする姿にグッと来る!

ついさっき、気になっていた映画『パージ』を見たので、感想を書いてみます。
ネタバレ



○一年に1度だけ、全ての犯罪が許される夜、"パージ"

パージとは作中の数年前に就任したアメリカの大統領が定めた法です。


一晩だけ犯罪を合法化して、国民のストレスや犯罪欲求を思う存分発散される。これで程よくガス抜きが出来、その後一年は経済が良くなり、犯罪発生率も減る。こうした効果のある画期的な制度です。


なぜか貧困率も減るようです。おそらく防犯設備と武器を買えない貧困者から殺されてしまうからでしょう。逆に富裕層と中流階級層は自衛が出来るから生き残りやすくなり、結果的に貧しい人が多く減って貧困率が低下する……といった所でしょうか。


ただの推測ですが、妙にリアルですね。



この映画の主役はサンディン家のジェームズ、およびそのファミリー達です。


防犯設備の開発・販売を行うジェームズと、その家族たちがパージの夜を生き抜くというストーリー。サンディン家は防犯設備をしっかり整えており、本来なら無事に乗り切れるはずでした。

ところが息子のチャーリーが、外を逃げ回っていた謎の男(以下"男"。作中では名前が出てこない)を家に避難させてしまいます。その男はパージ参加者に追われる身でした。


家の外には男を追っていたパージ参加者が集まって来ています。パージ参加者の中心人物(以下"パージャー"。こちらも名前無し)に、「男を差し出さなければ家に突入して皆殺しにする」と脅迫されます。


招かれざる部外者が家に入った事で、安全に過ぎるはずだった家族の夜は狂っていく……という話です。



以下ネタバレ











この映画は、

『獣になることが許される夜に、最後まで人間であろうとした家族の物語』

です。


ジェームズはパージの支持者で、自ら参加はしないものの、必要な事だと考えています。防犯設備を売る職業上、パージがあった方が儲かるという理由もあったのかも。


"男"を差し出せという要求にも乗るつもりで、家の中に隠れる"男"を探し出そうとします。家は外に群がる参加者によって電気の供給を断たれ、真っ暗になっています。


いくら暗いとは言え、さすがはスケールのデカイ国、アメリカ。探さなければ見つからないほど広い家なのですね。


"男"を捕まえた後は、暴れる"男"をガムテープでグルグル巻きにし、傷を抉ってまで大人しくさせようとします。因みに拘束するのに手が塞がっていた為、実際に傷を抉ったのは妻メアリーです。妻に「傷を抉って痛め付けろ」という狂気じみた事を命令した訳ですね。


実際に殺人に興じはしないものの、ジェームズは知らず知らずの内にパージに染まっていた訳です。


娘ゾーイと息子チャーリーは男を引き渡す事に最後まで反対。そもそも息子チャーリーは男を家に避難させていますし、家の中を逃げ回る男に隠れろと指示したりしています。


娘ゾーイに至っては人質に取られたりしたのに、なお引き渡そうとは言いませんでした。それどころか男を引き渡そうとするジェームズに対し、「この夜が終わっても元には戻れない」とすら言いました。


『男を助けず引き渡すジェームズを見たら、もう今まで通りの接し方は出来ない』という意味でしょう。



男を引き渡さなければ殺されるという状況の中、ゾーイとチャーリーは目の前の男を助けようとしている訳です。


そんな子供達の姿と、心変わりして「自分を差し出して子供を救え」と言う男の言葉により、ジェームズも考え直します。「引き渡して助かるのではなく、戦うべきだ」と。


獣になりかけていたジェームズが人間に戻った瞬間です。




以下さらにネタバレ















戦う意思を固めたジェームズは、家に侵入してきた参加者達を自衛の為に殺害します。


途中で息子チャーリーが参加者に見つかり、殺されかけます。ジェームズが助けるのですが、この殺害は殺しを楽しむ様子の参加者のそれとは明確に違います。


その後はビリヤード台やらピンボール台がある部屋で、参加者数名との殺し合い。


勝ちはしたものの喜ぶ訳でもなく、自分が殺した参加者を静かに見つめるだけです。「傷を抉れ!」と叫んでいた姿とは真逆の印象を受けるシーンですね。



しかしジェームズは、最初に脅迫してきたパージャーに刺され、致命傷を負います。残った家族も参加者に追い詰められてしまいます。


その時、現れたのが隣人達。冒頭にちょっとだけ出てきた人達です。この隣人達が参加者を殺し、パージャーも殺害。

やっと助かった……家族も私も皆さんもそう思った事でしょう。ところが、今度は隣人達が家族を殺そうとします。


「設備を売り付け、私たちのお金を搾り取った。その恨みを晴らす絶好のチャンス」との事。


隣人達もまた、獣になってしまっていたのです。冒頭でジェームズ達と仲良さげに話していたのが嘘のよう。


このまま救いようのないラストになってしまうかと思いきや、最後のどんでん返し。パージ参加者達に狙われていた男が現れ、家族を助けました。


男が来るのがあと一瞬でも遅ければ殺されていたはずです。最後の最後で家族を助ける男がチョー格好いい。


注目すべきは、男を狙う参加者達はこの時点で全滅しているという点。隣人達のターゲットは家族なのだから、そのまま何処かに隠れていれば助かる可能性が高い。


そんな中で出てくる男が格好良すぎです。見ようによっては助けて貰った恩返しみたいに見えるんですよね。


致命傷をおって動けないジェームズの代わりに家族を救いました。ジェームズとはまた違うヒーロー感があります。


(ジェームズが刺されたときに何やってたんだとも思いますが、ジェームズは刺された時から息絶えるまてほとんど声を発していません。よってジェームズの危機は気づけなかったけど、家族達の悲鳴は聞こえたから駆け付ける事が出来た……のだと思います。)


その後、家族達は残った隣人を殺すでもなく(隣人の一人の鼻をメアリーが叩き折ったりしましたが)、パージ終了。


隣人達は家から出ていき、男も家族に見送られながら無言で立ち去りました。


テレビではパージ終了を告げるアナウンサーの軽快なトークと、参加者による感想が流れます。


パージによって欲求を解消できたアメリカ国民達は、またいつもの生活に戻っていきました……。



○参加者の一人、パージャーの静かに狂っている感じが良い

参加者の中で最も目立っていた奴です。"パージャー"というのはパージ参加者の総称ですが、コイツは参加者の中心人物であり、この映画の悪役代表なのでパージャーと名付けています。


コイツは物凄く狂気的なキャラです。序盤で家族に対し口汚い言葉を吐きかけた奴を、平然と撃ち殺します。この時点で相当ヤバイ奴なのですが、続くセリフがまた凄い。


「教えておこう。彼は友人だった。 ……だが君は違う」


友人を撃ち殺したあ後に、平然とこう言ったのです。


この「君は違う」という部分に寒気がしました。友人は頭を打たれて即死でした。その後に上記のようなセリフを言ったもんだから、『友人だから苦しまないように殺してやったが、お前は違う。抵抗するなら、家族もろとも苦しませて殺すぞ』と聞こえました。


そしていざジェームズを殺すシーンでは、予想に反してアッサリ刺します。


「良かったな。アンタの魂は浄化(パージ)された」


「1つ教えろ。奴の命に価値が? 家族より上か?」


そしてジェームズの額にキスをし、「記憶に残るパージに感謝を……」と言い残し、その場を去ります。


ナイフで滅多刺しにするでもなく、声を挙げて笑うでもない。むしろ崩れ落ちるジェームズを支え、優しくビリヤード台に寝かせました。


このシーンがかなり印象的。他の参加者が家具を壊しまくり、「娘は俺がいただきだ~」と言うなど、世紀末も真っ青のヒャッハー状態でした。それだけに、コイツの気品すら感じさせる姿は印象的です。


おそらくジェームズや他の参加者とは別のベクトルで、パージという制度を崇拝しているのでしょうね。



○まとめ
総評としては、かなり面白かったです。

獣になることが許される夜に、最後まで人間であり続けようとするジェームズの姿にグッと来ます。悪役のパージャーも魅力的で、セリフがイチイチ印象に残る。


生き残った家族たちのその後も気になります。作中の娘のセリフ「もう元には戻れない」というセリフがありましたが、ジェームズが死に、隣人達の本性も知ってしまった以上、生活は激変してしまうでしょうね。